車田先生の日々是世界史(第11回「世界の人名」)

車田先生の日々是世界史

新年度となり,1ヵ月が経過しましたが,みなさんは順調に新しいスタートを切れましたか?

受験生は共通テストまで9ヵ月を切りました。最初のスタートが肝心です。早く新生活のペースを掴んで受験勉強に集中する状況を作りましょう!

前回は,ロシア・ウクライナの起源について綴りました。ロシア・ウクライナの歴史は,いずれまたの機会に続きを綴りたいと思います。

 さて,今回のテーマは,「世界の人名」です。人の名前は様々なルーツを探ることができます。例えばロシアの「ウラジミール=プーチン」大統領は,「ウラジミール」と名があるようにルーツはキエフ(キーウ)公国ではないかとも言われています。

 世界史で表記される「人名」には,宗教や祖先・文化など様々な由来があります。

ヨーロッパ圏では,ファーストネーム(個人名)・ミドルネーム・ファミリーネーム(姓)の順番で名前をつけるのが一般的です。ファーストネーム(個人名)は,キリスト教の聖人の名前に由来するものが多いです。ミドルネームは,英語圏では特に決まりはなく,つけてもつけなくても構いません。母親の旧姓などをつけることが多いです。ファミリーネームは一族の姓です。

 イスラーム圏では,伝統的に本人の名・父や祖先の名・出身地・宗派・尊称などを組み合わせて名前を付けることが多いです。イスラーム教に関連する名前が多いのが特徴です。

例えば,イラクの大統領でクウェートへ侵攻して湾岸戦争を起こした「サダム=フセイン=アブドゥルマジド」は,サダムが本人の名,フセインが父の名,アブドゥルマジドが祖父の名です。

 中国語圏では,「姓」・「名」・「字(あざな)」・「号」が組み合わされて使用されました。「姓」は家族の名で,古代においては「氏」と区別されていました。

「名」は個人の本名で,死後には「諱(いみな)」ともいわれて家族以外のものが,直接呼ぶことは避けられました。

「字」は本名の別名で,本名を呼ぶことを避けるために使用されました。「号」は文化人が使う風流な名のことです。また,長年中国には皇帝が存在していましたが,皇帝の名もいくつかあります。

例えば明の建国者「洪武帝」ですが,「洪武」は元号名で,皇帝に即位する以前の本名は「朱元璋」ですね。「朱」が「姓」で「元璋」が「名」です。

また,皇帝の死後に「諡号(しごう)」と「廟号」が皇帝には送られています。「洪武帝」の「廟号」は,「太祖」で中国歴代皇帝の「廟号」で「~祖」が使用されるのは,王朝の建国者です。

「諡号」は,唐代以降かなり長くなりました。例えば,「洪武帝」の「諡号」は,「開天行道肇紀立極大聖至神仁文義武俊德成功高皇帝」でかなり長いですよ。

あまりにも長いので,明代以降に「一世一元の制」(一代の皇帝で一度しか元号を使用してはいけない制度)が導入されると,治世時の元号で呼ばれるようになりました。

 「人名」には,接辞や称号が使用されることもあります。

例えば,「~の子ども」を意味する接辞として,イングランドでは「~ソン」(ジョンソン,ウィルソンなど),スコットランドでは「マック~」(マクドナルド,マッカーサーなど),アイルランドでは「オ~」(オコンネルなど),北ヨーロッパでは「~セン」(アンデルセン,イプセンなど),アラブでは「イブン~」「ビン~」(イブン=ハルドゥーン,ビンラディンなど)があります。

称号が使用されている例としては,中世ヨーロッパの貴族が所有地を通称としていたことから,「~の出身」を意味する前置詞に所領地名をつけた形式の人名があります。イタリア語の「ダ(da)」(レオナルド=ダ=ヴィンチ(ヴィンチ村のレオナルド)など),フランス語の「ド(de)」(ド=ゴールなど),ドイツ語の「フォン(von)」(オットー=フォン=ビスマルクなど),オランダ語の「ファン(van)」(ヤン=ファン=アイクなど)が例として挙げられます。

 人名の由来としては,宗教に由来する人名や職業に由来する人名,文化に由来する人名,地理的な由来の人名など様々由来がありますよ。

キリスト教を由来とする人名は,イエスの弟子である「ヤコブ」からジェームズ(英),天使の「ミカエル」からマイケル,マイク(英),

イエスの洗礼者「ヨハネ」からジョン(英),ジャン(仏),イヴァン(露),

使徒の一人で「異邦人の使徒」である「パウロ」からポール(英),パブロ(西)などがあります。

イスラーム教関連の人名としては,シーア派特有の人名としてアリーに使える者を意味する「アブド=アリー」,ムハンマドから派生した「アフマド」「アフムード」,聖書に関係する「イブラーヒム」(聖書のアブラハム),「イーサー」(聖書のイエス),「スレイマン」(聖書のソロモン)などです。

職業に由来する人名としては,鍛冶屋から「スミス(Smith)」,仕立屋から「サルトル(Sartre)」,裁判官の尊称である「李」,軍馬の飼育をつかさどった「司馬」などがあります。

文化に由来する人名としては,ギリシア神話の神ポセイドンの別称か「ヒッポ」からギリシア語の「フィリッポス」,英語の「フィリップ」,スペイン語の「フェリペ」,ゲルマンの男を意味する「Karl」から英語の「チャールズ」,フランス語の「シャルル」,ドイツ語の「カール」,スペイン語の「カルロス」などが生まれました。

地理的な由来としては,小川から「バッハ」,バラ園から「ローズヴェルト」,中国の春秋戦国時代の国名から「魏」「趙」「陳」「周」などが成立しました。

 さて,今回は「人名」について綴ってきましたが,日本人は明治時代以降,国民すべてに名字が必要とされたために約30万種の姓が生まれました。

一方,中国では戦国時代(前5世紀),朝鮮半島では高麗時代(10世紀)には姓をもつことが一般化されており,また血縁を重視する儒教の影響が大きかったので,祖先の姓を変える動きが少なく姓の数も増えませんでした。

中国では約6000,朝鮮では約225種ほどと言われています。 皆さん自身の「姓」を調べてみると祖先のルーツが判明するかもしれませんね!

この記事を書いた人:車田恭一

30年以上にわたり教壇に立ち、都内私立高校、河合塾、Z会東大マスター、東進ハイスクール、早稲田塾、早稲田ゼミナールなど大手予備校で世界史を担当。当塾のブログで、タイムリーな話題と歴史的な出来事を絡めて綴った「車田先生の日々是世界史」を執筆中。

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