車田先生の日々是世界史(第9回 「中国の官吏登用制度」)
2月も最終日になりました。私立大学の入試も大半が終わって,合格発表もそろそろ出始めた頃と思います。受験生のみなさんが順調にいっていることを願っております!
残すは,国公立大学の2次試験ですね。最後まで諦めずに合格を自らの手で引き寄せてください。
さて,今回のテーマは,受験にちなんで「中国の官吏登用制度」について綴っていきます。
現在の日本ならば,さしずめ,「国家公務員採用総合職試験(院卒者・大卒程度)・一般職試験(大卒程度)」という感じですね。中国のおもな官吏登用制度として代表的なものしては,「郷挙里選」・「九品中正」・「科挙」などがあります。
「郷挙里選」とは,前漢の武帝が制定した官吏登用制度で,地方の優秀な人材(特に儒学における有徳者)を地方長官が推薦して中央の官僚とする制度です。
しかし,豪族(地方の大土地所有者で有力者)の子弟が多く推薦されて官僚となったため,豪族の中央政界への進出の手段とされる弊害が生じました。そこで,後漢滅亡後に成立した魏で新たな官吏登用制度である「九品中正」が開始されました。
「九品中正(九品官人法)」は,魏の建国者である文帝(曹丕)が「郷挙里選」に替わって開始した官吏登用制度です。中央の官僚の地位(官品)を九品に分けて編制し,中央から地方(州・郡)に派遣された中正官が,推薦された人材を地方の評判によって9等級に分けて(郷品)中央に報告し,その報告に応じて中央政府は官職を与えた制度です。
しかしこの制度もまた腐敗していきます。地方豪族は,派遣された中正官を次第に取り込んで,地方豪族の子弟が上位の郷品を独占する状態(つまりは贈収賄ですよ)が起こりました。
こうした状況を「上品に寒門(貧しい家柄のこと)なく,下品に勢族(有力豪族のこと)なし」と風刺されました。一度権力を掌握すると手放したくないものなのでしょう!(今も昔も変わらないですね。私は権力を持ったことがないので,よく分からないですけど…)
「郷挙里選」「九品中正」いずれも推薦試験で腐敗したので,これではダメだということになって,新たに「科挙」が実施されるようになりました。
「科挙」は,隋の建国者である文帝(楊堅)が598年に開始した学科試験による官吏登用制度です。
門閥貴族(有力貴族)による官職の独占を打破することを目指しましたが,隋・唐ではうまく機能せず宋代以降に改革が実施されて確立されました。
元代(13世紀)に一時中止されましたが,1314年に復活して1905年に廃止されるまで長期にわたって実施されました。「科挙」とは,いったいどんな試験だったのでしょうか?今回は,宋代以降改革された「科挙」ついて綴っていきます。
宋(北宋)を建国した趙匡胤(太祖)・2代目の太宗は,文治主義(武力によらない文人官僚を中心する統治)を推進したため,うまく機能していなかった「科挙」の改革を実施しました。
試験資格は,身分関係なくほぼ全ての男性が受験できました。(平等を目指していますが,女性は受験できませんでしたし,かなりの教養が必要なために幼少から高い教育費をかけなければ合格できませんでした。すでに経済・教育格差が存在していたんですね。)
試験科目は,儒学の経書(「四書」「五経」など)の解釈を暗記,作詩(五言律詩や賦などの漢詩を作る),時事問題や政治に関する意見書の作成などです。
儒学を重視したため儒学の思想が広く普及する一方,科挙試験科目とされたために思想の固定化に繋がっていく面もありました。
「科挙」は,宋代以降毎年から3年に1回の実施となり「州試」・「省試」・「殿試」の3段階で実施されていました。
「州試(解試)」は,一次試験で各州での地方試験です。明代以降は,「郷試」と呼ばれます。
「省試」は,二次試験で中央の六部の一つ礼部で実施された試験です。明代以降は,「会試」と呼ばれます。
「殿試」は,宋の趙匡胤(太祖)が開始した科挙の最終試験で,皇帝による直接の試験です。
「科挙」は,受験生にとって非常に過酷でした。受験生は,食料・布団・筆記用具を用意して自炊で2泊3日,幅1メートルほどの部屋で解答をしなければいけませんでした。
1つの試験場で数万人の受験者がいたと言われています。過酷な一方,合格すれば一族を食べさせていけるほどの特権が与えられたとされています。現在の中国の大学受験が日本の大学受験に比べると厳しいのは,「科挙」の影響があるのも一因と考えられています。
今回は,中国の官吏登用制度について綴ってみました。まだまだ受験が続くとは思いますが,受験生のみなさん,最後まで自分を信じて全力を尽くしましょう。
この記事を書いた人:車田恭一
30年以上にわたり教壇に立ち、都内私立高校、河合塾、Z会東大マスター、東進ハイスクール、早稲田塾、早稲田ゼミナールなど大手予備校で世界史を担当。当塾のブログで、タイムリーな話題と歴史的な出来事を絡めて綴った「車田先生の日々是世界史」を執筆中。