車田先生の日々是世界史(第6回  感染症の世界史 パート3)

車田先生の日々是世界史

共通テストも終わり,受験生のみなさんは,いよいよ私立大学・国公立大学2次と受験本番に向けて毎日緊張感をもって過ごしていることと思います。

さて,前回のブログ更新からだいぶ時間があいてしまいました。すみません。

年明け以降ジワジワと増えていた新型コロナウイルスもオミクロン株の登場で,ついに第6波となってしまいました。

受験生のみなさんは,気が気ではないでしょうが,体調管理と予防をしっかりして受験に備えてくださいね!今回も前回に引き続き,感染症の歴史第3弾「16世紀以降,人類がどう感染症に対処してきたか?」をテーマに綴ります。

1492年,コロンブスがスペインのパロス港を出港して大西洋を渡り,西インド諸島のサンサルバドル島に到達した今年で230年です!)ことで,その後にアメリゴ=ヴェスプッチの探検でアメリカ大陸がヨーロッパ人の知らない未知の大陸であることが,ヨーロッパ世界に広く知られるようになりました。(ちなみに「アメリカ」の地域名は,ドイツの地理学者ヴァルトゼーミューラーが,アメリゴ=ヴェスプッチの功績を称えて「アメリカ」と最初に使用したことに由来しますよ。)

結果,ヨーロッパから多くの人々がアメリカ大陸を訪れるようになって,「麻疹」や「天然痘」を持ち込み,抗体をもっていない先住民の多くが死亡しました。

また,アメリカ大陸からヨーロッパに持ち込まれた感染症としては,一説にはハイチ島の風土病と思われる「梅毒」がコロンブス一行によって持ち込まれたとされています。いわゆる「コロンブスの交換」と呼ばれています。

「梅毒」は,性交渉などによって感染し,ヨーロッパではイタリア戦争やルネサンスによる風紀の乱れの中で瞬く間に広まったと言われています。

イタリア戦争中,イタリアに侵入したフランス軍兵士に感染者が続出してフランス軍は撤退を余儀なくされました。アジアへは,ヴァスコ=ダ=ガマ一行が1498年に南アフリカの喜望峰経由でインドのカリカットに到達してインドにもたらし,日本にも1521年には伝来しています(倭寇から経由したのではないかと考えられています)。

このように大航海時代による「世界の一体化」で感染症は,世界中にアッという間に広まりました(移動手段の早い現代社会では,もっと早く広まることがお分かりですね!)。

大航海時代による「世界の一体化」は,マイナス面だけではないのですよ。

1517年,ドイツのマルティン=ルターが宗教改革を開始すると,ヨーロッパではカトリック(旧教)からプロテスタント(新教)への改宗者が相次ぎました。宗教改革に対抗するため,ローマ=カトリック教会はイエズス会宣教師を世界各地に派遣してカトリック布教を行いました。

イエズス会の宣教師がヨーロッパへ帰国する際に,マラリアの特効薬(キナの樹皮)を持ち帰って,「マラリア」の治療が進んでいます。

17世紀になっても感染症は猛威をふるいました。

「17世紀の危機」と呼ばれる気候の寒冷化によってヨーロッパでは,穀物生産の低下で飢饉の多発やペストや発疹チフスなどの大流行,さらにイギリス革命(ピューリタン革命・名誉革命)ルイ14世の侵略戦争三十年戦争による混乱で人口の停滞と減少,経済活動が低迷します。

そうした中,感染症はまたまた猛威をふるいます。

ロンドンではペストが大流行(1665~66年)して死者が10万人以上出ます。

このペスト流行のためケンブリッジ大学が閉鎖されて故郷に帰っていたニュートンが「万有引力の法則」のヒントを得たと言われています。一方,アジアではペストの拡大を抑え込んだ清が繁栄していきます。

18世紀になっても世界各地で感染症の流行がとどまりません。

日本では脚気が流行します。徳川家康の開いた江戸幕府の政治的な安定期に入った17世紀以降「徳川の平和」による米の増産で江戸の町では白米食が主流となり,ビタミン不足による脚気が増加しました。「江戸患い」です。

ヨーロッパでは,18世紀末に起きたフランス革命も感染症が後押ししたのでは? フランス革命に干渉したオーストリア・プロイセン軍の兵士に赤痢が大流行したため戦争継続不能になって撤退しなければならなかったとも言われています。

このように感染症は,歴史を大きく動かしています。

これに対して人類は,為す術がなかったのかと思われますが,ジェンナーが種痘法(天然痘のワクチン)を開発(1796年)してから,ある意味人類のウイルスに対する反撃が開始されます。その話は,長くなるので次回に持ち越しますね。

この記事を書いた人:車田恭一

30年以上にわたり教壇に立ち、都内私立高校、河合塾、Z会東大マスター、東進ハイスクール、早稲田塾、早稲田ゼミナールなど大手予備校で世界史を担当。当塾のブログで、タイムリーな話題と歴史的な出来事を絡めて綴った「車田先生の日々是世界史」を執筆中。

受講相談フォーム
資料請求フォームはこちらから