車田先生の日々是世界史 第18回「インドの宗教の成立」

車田先生の日々是世界史

受験生のみなさん,いよいよ私大・国公立大2次試験となります。

受験した大学の問題は,必ず復習して次の受験へと生かしてください。さて,今回はインドの宗教の成立に関して綴っていきます。

 現在,インドでは人口の80%以上をヒンドゥー教徒が占めていて,続いてイスラーム教徒・キリスト教徒・シク教徒・仏教徒などの順の宗教分布となっています。

それでは,古代インドにおける宗教は,どうだったのでしょうか?

インダス川の流域に紀元前2600年頃にインダス文明が成立すると,「モエンジョ=ダーロ」「ハラッパー」などの遺跡から神様であろうと推定される像が発掘されています。

インダス文明は,インドの先住民と推定される「ドラヴィダ人」が建設したされる文明でしたが,前1800年頃に滅亡しています。

滅亡した原因は,さまざまな説がありますが,確定している原因は今のところ定かではありません。インダス文明が滅亡した後,前1500年頃インダス川中流域のパンジャーブ地方に,インド=ヨーロッパ系の民族「アーリヤ人」が侵入してくると,彼らは先住民を征服しながら約500年かけてガンジス川流域へ移動しました。

この移動の間に「アーリヤ人」は,雷や風などの自然物を神とする「バラモン教」を成立させました。前1200年頃,「バラモン教」最古の聖典で神々への賛歌集である『リグ=ヴェーダ』が編纂されると「ヴァルナ」と呼ばれる厳しい身分制度が誕生しました。

「ヴァルナ」とは,元来「色」を意味していて,「アーリヤ人」が先住民を征服する際に,皮膚の色の違いによって差別化したことが原型で4つの基本身分に分けました。

最上位は,「バラモン」と呼ばれる司祭階級,2番目には,「クシャトリヤ」と呼ばれる王侯・武士階級で政治・軍事を担当しました。3番目には,「ヴァイシャ」と呼ばれる庶民階級で農耕・牧畜・商工業を担当しました。

最下位には,「シュードラ」と呼ばれる隷属民階級で「アーリヤ人」に奉仕の義務が課されていた被征服民でした。「シュードラ」は,後に農耕・牧畜を担当するようになりました。

これ以外に「ヴァルナ」の枠外には,「不可触民」と呼ばれる最も差別される人々が存在していて,動物の死体処理や清掃などを担当しました。さらに,「ジャーティ」と呼ばれる「出自」を意味する世襲の同職社会集団が2000~3000存在しました。

同一「ジャーティ」でなければ,結婚や食事ができないとされてきました。「ヴァルナ」と「ジャーティ」が融合したのが,「カースト制度」です。

「カースト」とは,ポルトガル語の家系・血族を意味するcasta(カスタ)を語源としていて,現在のインドにおいても根強く慣習として残っています(1950年に制定されたインド憲法では禁止されていますが…)。

こうした「バラモン」の支配に対して,ガンジス川流域で都市国家が形成されていく中,「クシャトリヤ」「ヴァイシャ」階級が台頭して,徐々に不満を高まっていきます。

現在のガンジス川

「バラモン教」の内部からも紀元前7世紀頃から「ウパニシャッド哲学」が現れ,批判が出てくるようになりました。

「ウパニシャッド哲学」は,「バラモン教」の祭式万能主義に対して,人間の内面を重視する宗教哲学で世界最古の思弁的哲学とされています。

宇宙の本質である「梵」(ブラフマン)と個人の存在本質である「我」(アートマン)が同一であることを目指しています(「梵我一如」)。

「梵我一如」によって、「業」(カルマ)によって決められた「輪廻転生」からの「解脱」を図ります。

「業」とは,人間(自分)が現世において行った行為が,来世の自分を決定するという概念です。

「自業自得」とは,これが語源です。

「輪廻転生」とは,生物は現世の行為によって来世が決まるし,生物は無限に生死を繰り返していく概念です。

占いなどで「現在,あなたが苦しんでいる原因は,あなたの前世にある」と言われるのは,「輪廻転生」に基づく考え方ですよ。

「輪廻転生」から解放されて自由を得る状態を「解脱」と呼びます。

「ウパニシャッド哲学」は,呪力による支配を否定して,知力による救済を主張したために世界最古の思弁的哲学とされているのです。

こうした概念は,紀元前6世紀以降にインドで成立する「仏教」や「ジャイナ教」に大きな影響を与えました。

ガンジス川流域で都市国家が成立すると,国家統一のための新しい理念が必要となり,さらには,商工業の発達によって,貧富の差が拡大していく中,社会不安や民衆の不満が増加して「バラモン教」以外の新しい宗教の成立を促していくことになったのです。

その他,「ウパニシャッド哲学」は,18世紀末にドイツの「カント」によって創始された「ドイツ観念論」にも大きな影響を与えています。

 今回はここまで。

次回は,「ウパニシャッド哲学」の影響によって新しく成立した「仏教」や「ジャイナ教」の成立・発展について綴っていきます。

「仏教」は,インドから中国を経由して日本にも伝播してきていますよね。現在の日本人の中では,最も多くの人が信仰していると思われます。

日本人の精神を形成する上で重要な役割を果たした宗教の一つですから,是非,参考にしてください。

 最後に「共通テストの世界史B」について。

資料文が多く出題されていて戸惑った受験生が多かったのではないかと思います。

速報では,2022年よりも平均点が下がりそうな感じです。読んだこともない資料文が出題されていても,必ず設問の中にヒントが隠れています。

世紀・地域・人物・歴史的出来事を探してみると,意外と基本的な事項で判断できる問題が多いものです。落ち着いて問題を読んで正解を導き出してくださいね!

受験生のみなさんの健闘と合格を祈っております。

この記事を書いた人:車田恭一

30年以上にわたり教壇に立ち、都内私立高校、河合塾、Z会東大マスター、東進ハイスクール、早稲田塾、早稲田ゼミナールなど大手予備校で世界史を担当。当塾のブログで、タイムリーな話題と歴史的な出来事を絡めて綴った「車田先生の日々是世界史」を執筆中。

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