車田先生の日々是世界史 (第4回 感染症の世界史 パート1)
みなさん,ご機嫌いかがでしょうか?
前回の投稿からしばらく時間が空いてしまってすみません。年末に近づくと「師走」と言われるように,バタバタしてなかなかブログの投稿まで手が回らなかったです(完全に言い訳です)。
さて,今回のテーマは,もうここ2年間私たちの生活を苦しめている新型コロナ!
そう,感染症の歴史についての第1弾です。
12月8日(現地時間12月7日)は,ハワイの真珠湾攻撃から80年でした。
日本は,1931年の柳条湖事件を契機とする満州事変(90年ですよ!)から日中戦争を経て,1941年ついにアメリカ合衆国との太平洋戦争に突入しました。
この間に日本国民の300万以上の尊い命が失われました。戦争では,多くの死傷者が出ます。
しかし,歴史上最も多く人類に犠牲を与えてきたのは,戦争ではなく紛れもなく感染症,病原菌(ウイルス)です。
そこで,今回は人類に多大な犠牲を与えたウイルスであるペスト(黒死病)をテーマにします。
ペスト(黒死病)は,歴史上何度も人類に犠牲を与えてきました。
特に大きな犠牲者を出したのが,14世紀に発生したペストです。
14世紀にペストが発生した原因は,様々な説がありますが,有力な説としては自然環境の破壊や人の移動が原因とあります。現代世界とあまり変わらないですね。
ペストは,元々現在の中華人民共和国雲南地方の風土病であった思われます。
13世紀にモンゴル高原を統一したチンギス=ハンがモンゴル帝国を成立すると,モンゴル帝国はその後,ユーラシア大陸の大部分を征服する大帝国に発展しました。因みに雲南地方を征服したのは,フビライ=ハンですよ。
モンゴル帝国は支配した地域のネットワークとして駅伝制(ジャムチ)と呼ばれる交通ネットワークを展開していました。
14世紀前半に,モンゴル人の乗った馬の鞍にペスト菌を保有したノミが紛れ込んで中央アジアの草原地帯に持ち出されて,まず中国の湖北省に1320年頃,山東省・福建省に1345年頃に伝播したと考えられます。
その後,南ロシアのキプチャク=ハン国,地中海を経て1347年頃にはイタリア半島のジェノヴァ・ヴェネツィアに伝播しています。
(これは,中世ヨーロッパにおける商業圏の拡大,東方貿易が関係していますよ!受験生のみなさん,しっかりと関連を押さえておきましょう)
イタリア半島に上陸したペスト菌は,交易ネットワークを通じて瞬く間に西ヨーロッパ世界に伝播していきます(ペスト菌を保有したネズミなどがイタリア商人の船に乗り込んで上陸していったと考えられます)。
1347年にロンドン,1350年にリューベック,1352年にモスクワへと広がり,西ヨーロッパの総人口の約3分の1がペストによって失われたと言われています。
では,何故,西ヨーロッパでこれだけ多くの犠牲者を出したのでしょうか?
当時の西ヨーロッパの医療技術も未熟であったことも原因の一つですが,自然環境の破壊も大きく関係しているんです。
12~13世紀の西ヨーロッパでは,人口が増えたことによって食糧の増産が急務でした。各地で大開墾運動が,シトー修道会などによって展開されて森林が減少しました。
元々,ローマによって征服される以前のドイツやフランスは,国土の3分の2は森林地帯でした。
これが12~13世紀の大開墾運動によって植物の繁殖力を上回る伐採や重量有輪犂の発明で森林の消失に拍車がかかって,1500年頃のドイツやフランスの森林は,国土の3分の1まで減少してしまいました。
では,森林の消失の何が問題だったのでしょうか?
森林が減少したことで,森に住むフクロウやオオカミが減少したため,ペスト菌を保有したクマネズミの天敵がいなくなり,クマネズミが増加して人間が住む地域まで移動しやすくなったこともペストが西ヨーロッパで流行した遠因だと思われます。
現代でも開発が進んだことで野生の動物が人里まで降りてくるようになったなんていうニュースがたくさん流れてますよね。
私の実家の庭先にも度々,シカが出没します💦
地球環境に一番いいのは,人類が地球上に存在しないことかもしれませんね。
さて,今回は14世紀のペストの流行について取り上げました。ペストをテーマにした本としては,カミュの書いた『ペスト』はお薦めですよ。人間の内面性を考えさせられます。
まだまだ新型コロナが終息する気配が見えない状況ですが,それでも大学入試は実施されます。
受験生のみなさん,体調管理には十分に気を付けて入試を迎えましょう。
私も年内には時間が許す限り,ブログを更新していくつもりです。
この記事を書いた人:車田恭一
30年以上にわたり教壇に立ち、都内私立高校、河合塾、Z会東大マスター、東進ハイスクール、早稲田塾、早稲田ゼミナールなど大手予備校で世界史を担当。当塾のブログで、タイムリーな話題と歴史的な出来事を絡めて綴った「車田先生の日々是世界史」を執筆中。